商社業界トップ5 財務諸表比較
5大商社の伊藤忠商事・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅について、2026年3月期通期決算の主要財務指標を横並びで比較します。商社は本業のトレーディング収益だけでなく、出資先企業からの持分法投資損益が利益の柱になっているという業態上の特徴があるため、「投資収益比率チャート」でその内訳も確認できます。
バリュエーション・マップ(PER × 売上高倍率)
縦軸はPrice Earnings Ratioの略。株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標で、株価が利益水準に対して割高か割安かの目安として使われます。詳しくはこちら →、横軸は時価総額を売上高で割った倍率(PSR=Price to Sales Ratioとも呼ばれます)。利益がマイナスでPERが算出できない赤字企業でも、売上高さえあれば算出できる株価指標です。詳しくはこちら →で、いずれも対数スケールです。バブルの大きさは時価総額を表します。数値の詳細は下記「指標比較表」または各バブルにカーソルを合わせてご確認ください。
資本効率マップ(ROA × 自己資本比率)
Return On Equityの略。株主が出した資本(自己資本)に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷自己資本で算出します。詳しくはこちら →という1つの数字が「本業の稼ぐ力(Return on Assetsの略。負債も含めた総資産全体に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷総資産で算出します。詳しくはこちら →)」と「レバレッジ(総資産のうち、返済不要の自己資本(株主資本)がどれだけの割合を占めるかを示す指標。数字が高いほど負債への依存度が低く、財務的な余力が大きいとされます。詳しくはこちら →の低さ)」のどちらでできているかを分解して見るチャートです。斜めの参照線はROE一定線(ROE=ROA÷自己資本比率という恒等式に基づく)で、同じ線の上に乗っている会社は数式上ROEが同じであることを意味します。
横軸は自己資本比率、縦軸はROA(簡易値=ROE×自己資本比率で逆算した値。総資産の実額からの算出ではありません)で、いずれも線形スケールです。バブルの大きさは時価総額です。同じROE一定線に乗っていても、自己資本比率が低い(左側の)会社ほど、そのROEはレバレッジで底上げされている度合いが大きいことを意味します。
投資収益比率チャート(持分法投資損益 ÷ 当期純利益)
商社は本業のトレーディング収益だけでなく、出資先企業(関連会社・共同支配企業)の利益の持分相当額を「出資先企業(子会社ほど支配力は強くないが一定の影響力を持つ関連会社等)の利益のうち、出資比率に応じた持分相当額を自社の損益として計上する会計項目。商社など出資先企業からの収益に大きく依存する業界で、利益の内訳を理解する上で重要な指標です。詳しくはこちら →」として計上する投資事業も、利益の大きな柱にしています。このチャートは、各社の当期純利益のうちどれだけが出資先企業からの投資収益で占められているかを、積み上げ横棒(濃い色=持分法投資損益、薄い色=それ以外の純利益)で示しています。
投資収益比率(持分法による投資損益 ÷ 当期純利益)の高い順に5社を並べています。バーの右の数値が投資収益比率です。
ネットキャッシュ比較チャート
ネットキャッシュ(現金及び現金同等物-有利子負債)は、借入金をすべて返済してもなお現金がどれだけ残るかを表す指標です。5大商社は自動車業界のような大規模な自社金融事業(自動車ローン等)を通常持たないため、自動車業界編で必要だった「金融事業を除いた事業単体ベースへの調整」は不要です。ただし5社とも結果はマイナス(負債超過)となっており、これは資源開発・インフラ等への大規模投資を借入で賄う商社のビジネスモデル上、通常時から有利子負債が現金を上回りやすい財務構造を反映したものです。自動車業界のような金融子会社による歪みとは性質が異なる点にご注意ください。
ネットキャッシュの大きい順に5社を並べた横棒グラフです。単位は兆円(軸目盛り)、バー上のラベルは億円単位の実数です。
指標比較表
| 指標 | 伊藤忠商事 | 三菱商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 |
|---|---|---|---|---|---|
| 規模 | |||||
| 売上高(売上収益・経常収益) | 148,231億円 | 189,160億円 | 139,952億円 | 73,373億円 | 82,658億円 |
| 売上高成長率(前期比) | +0.7% | +1.6% | -4.6% | +0.6% | +6.1% |
| 収益性 | |||||
| 営業利益(経常利益) | 7,019億円 | — | — | — | 2,567億円 |
| 営業利益率(経常利益率) | 4.7% | — | — | — | 3.1% |
| 当期純利益 | 9,003億円 | 8,005億円 | 8,340億円 | 6,003億円 | 5,439億円 |
| Return On Equityの略。株主が出した資本(自己資本)に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷自己資本で算出します。詳しくはこちら → | 13.6% | 8.2% | 9.4% | 12.9% | 12.4% |
| Return on Assetsの略。負債も含めた総資産全体に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷総資産で算出します。詳しくはこちら → | 5.3% | 3.2% | 4.0% | 4.4% | 5.1% |
| EPS(1株当たり利益) | 128.00円 | 210.92円 | 291.12円 | 124.77円 | 330.42円 |
| 出資先企業(子会社ほど支配力は強くないが一定の影響力を持つ関連会社等)の利益のうち、出資比率に応じた持分相当額を自社の損益として計上する会計項目。商社など出資先企業からの収益に大きく依存する業界で、利益の内訳を理解する上で重要な指標です。詳しくはこちら → | 3,235億円 | 4,679億円 | 4,474億円 | 2,667億円 | 3,383億円 |
| 投資収益比率(持分法投資損益 ÷ 当期純利益) | 35.9% | 58.5% | 53.6% | 44.4% | 62.2% |
| OHR(経費率) | — | — | — | — | — |
| 財務健全性 | |||||
| 総資産のうち、返済不要の自己資本(株主資本)がどれだけの割合を占めるかを示す指標。数字が高いほど負債への依存度が低く、財務的な余力が大きいとされます。詳しくはこちら → | 39.4% | 39.1% | 42.1% | 33.9% | 41.4% |
| BPS(1株当たり純資産) | 942.78円 | 2578.33円 | 3093.56円 | 970.22円 | 2663.18円 |
| 現金及び現金同等物 | 5,938億円 | 18,415億円 | 9,827億円 | 10,054億円 | 5,511億円 |
| 有利子負債 | 36,727億円 | 57,469億円 | 51,229億円 | 41,771億円 | 24,100億円 |
| ネットキャッシュ | -30,789億円 | -39,054億円 | -41,402億円 | -31,717億円 | -18,589億円 |
| 自己資本比率(バーゼル規制ベース) | — | — | — | — | — |
| 市場評価 | |||||
| 1株配当(会社予想) | 42円 | 110円 | 115円 | 38円 | 108円 |
| 株価 | 2027.5円 | 4794.0円 | 4886.0円 | 1579.0円 | 5144.0円 |
| Price Earnings Ratioの略。株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標で、株価が利益水準に対して割高か割安かの目安として使われます。詳しくはこちら → | 14.92倍 | 15.96倍 | 15.05倍 | 11.96倍 | 14.53倍 |
| PBR(実績) | 2.15倍 | 1.86倍 | 1.58倍 | 1.63倍 | 1.93倍 |
| 配当利回り(会社予想) | 2.17% | 2.61% | 2.87% | 2.53% | 2.24% |
| 時価総額 | 160,668億円 | 177,883億円 | 139,968億円 | 75,483億円 | 85,429億円 |
| 時価総額を売上高で割った倍率(PSR=Price to Sales Ratioとも呼ばれます)。利益がマイナスでPERが算出できない赤字企業でも、売上高さえあれば算出できる株価指標です。詳しくはこちら → | 1.08倍 | 0.94倍 | 1.00倍 | 1.03倍 | 1.03倍 |
決算数値の算出基準: 2026年5月1日発表の2026年3月期決算短信/株価・PER・PBR・配当利回り・時価総額の基準: 2026年7月29日12:50頃(東証、取引時間中のリアルタイム株価。終値ではない)
商社業界のビジネスモデルと財務構造
総合商社は、かつての「貿易の仲介(トレーディング)」から、資源・エネルギー、食料、機械、生活消費関連などの事業会社に出資して経営に参画し、その利益を取り込む事業投資会社へと姿を変えています。利益の多くが出資先企業から生まれるため、どの分野にどれだけ投資しているかが各社の業績の個性を決めます。
その特徴が最もよく表れるのが、出資比率20〜50%程度の関連会社の利益のうち持分相当額を取り込む持分法による投資損益です。商社によっては当期純利益の半分以上をこの持分法利益が占め、連結の売上高や営業利益だけでは収益力を正しく測れません。本ツールで「投資収益比率」を独自に表示しているのはこのためです。
また、資源(金属・エネルギー)の比率が高い商社は資源価格の変動で利益が大きく振れ、非資源(食料・小売・生活関連)の比率が高い商社は相対的に安定します。会計上も、取引を総額で計上するか純額で計上するかで売上高が大きく変わり、IFRSでは営業利益に相当する科目がない会社もあるため、PSRや営業利益率は他業界ほど比較に適しません。
商社業界で注目したい指標の読み方
- 投資収益比率(持分法投資損益÷当期純利益)
- 利益が「自社のトレーディング・連結子会社の事業」と「出資先からの投資収益」のどちらに依存しているかを示す、本ツール独自の指標です。比率が高いほど出資先の業績に左右されやすく、出資先の事業内容(資源か非資源か)とあわせて読むのが重要です。
- ROE
- 商社各社は中期経営計画でROE目標(12%以上など)を掲げ、資本効率を重視した投資の入れ替えを進めています。ROEが資本コストを安定的に上回るかどうかが、PBRの水準を左右します。
- ネットキャッシュ・有利子負債
- 事業投資の資金を借入で賄うため、5社とも有利子負債が手元資金を上回っています。各社は「ネットDEレシオ(純有利子負債÷資本)」で財務規律を管理しており、投資と株主還元のバランスを見るうえで注目されます。
5社の比較から読み取れること(運営者の見解)
投資収益への依存度は35.9%〜62.2%と大きく分かれる
投資収益比率は丸紅62.2%・三菱商事58.5%・三井物産53.6%が50%を超える一方、伊藤忠商事は35.9%と5社で最も低くなっています。伊藤忠は連結子会社を通じて非資源分野の事業を自ら運営する比重が高く、同じ「総合商社」でも利益の稼ぎ方が大きく異なることが分かります。
ROEは伊藤忠・住友商事・丸紅が12%超
ROEは伊藤忠商事13.6%・住友商事12.9%・丸紅12.4%が12%を超える一方、三菱商事は8.2%と5社で最も低い水準でした。当期純利益は伊藤忠商事・三井物産・三菱商事が8,000億円超で並ぶものの、資本効率では差がついており、資源価格の動向が資源比率の高い商社の利益を左右しやすいことが背景にあると考えられます。
5社ともPBR1.5倍超、PERは12〜16倍
PBRは1.58倍(三井物産)〜2.15倍(伊藤忠商事)と5社すべてが1.5倍を超え、PERも11.96倍〜15.96倍の範囲に収まっています。かつてPBR1倍割れが常態だった商社株が、事業投資モデルへの転換と株主還元の強化によって評価を大きく切り上げたことが読み取れます。
PSRは5社とも約1倍で横並び
PSR(売上高倍率)は0.94〜1.03倍とほぼ横並びです。商社の売上高は取引の計上方法によって大きく変わり、利益の源泉も持分法利益にあるため、PSRが各社の評価の違いをほとんど説明しない業界の典型例です。
あわせて読みたい記事
- 【業界比較】伊藤忠・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅、5大商社の2026年3月期決算を財務指標で比較する — 本ツールのデータをもとにした解説記事
- 貸借対照表(BS)の読み方:資産・負債・純資産と自己資本比率 — 自己資本比率・有利子負債の基礎
- 損益計算書(PL)の読み方:売上高から当期純利益までの利益の構造 — 営業利益率・当期純利益の基礎
※上記は掲載データをもとにした運営者の見解であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
会社概要・会計基準
算出方法・データソース
- ROE(自己資本利益率)は、各社が決算短信で個別に公表する値ではなく、EPS(1株当たり利益)÷ BPS(1株当たり純資産、期末値)で5社統一の計算式により算出した簡易値です。期中平均ではなく期末の純資産を分母にしているため、公表される正式なROEとは小数点以下がずれる場合があります。
- ROA(総資産利益率)は、決算短信の総資産の実額から算出した値ではなく、上記の簡易ROEに自己資本比率を掛けて逆算した簡易値です(ROE=ROA÷自己資本比率という恒等式の逆算)。
- 株価・PER・PBR・配当利回り・時価総額は、自動車業界編(東証終値基準)と異なり、取引時間中に取得したリアルタイム株価に基づいています。確定した終値とは異なる場合があります。
- 営業利益は、5社のうち伊藤忠商事・丸紅の2社は投資家便宜のための自主開示の参考値を採用していますが、三菱商事・三井物産・住友商事の3社はIFRS連結損益計算書に営業利益に相当する独立科目自体が存在しないため、根拠のない推測値を掲載せず「算出不可」としています。同じ商社・同じIFRS採用でも、営業利益段階の開示有無が会社によって異なる点にご注意ください。
- 比較対象は5大商社(伊藤忠商事・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅)に限定しており、準大手商社(豊田通商・双日等)との比較は含みません。
- 持分法による投資損益は、各社の連結損益計算書に記載されている当該科目の値をそのまま採用しています。投資収益比率(持分法による投資損益 ÷ 当期純利益)は、商社のビジネスモデルにおける「出資先企業からの投資収益への依存度」を示す指標として、本ツールで新たに算出したものです。
- ネットキャッシュ(現金及び現金同等物-有利子負債)は、連結ベースの数値から算出しています。有利子負債はいずれも各社が連結財政状態計算書で開示する「社債及び借入金」(流動+非流動)のグロス値で、リース負債は含みません。リース負債の開示粒度が会社によって不揃い(合算対象に含めている会社と、独立科目のため合算していない会社が混在)なため、5社間の比較可能性を優先し、いずれの会社もリース負債を除いたベースで統一しています。自動車業界編の「短期借入金・長期借入金・社債・リース債務の合計」という定義とは異なる点にご注意ください。
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