【業界比較】伊藤忠・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅、5大商社の2026年3月期決算を財務指標で比較する
「商社株はバフェットも買っている高配当株」というイメージを持つ方は多いと思いますが、実際に5社を財務指標で並べてみると、同じ「商社」という括りでも稼ぎ方に大きな違いがあることが見えてきます。
この記事は、Quant Nestの「業界比較」シリーズ第2弾です。第1弾の自動車業界トップ5 財務諸表比較に続き、今回は5大商社(売上高・純利益いずれで見てもほぼ同じ顔ぶれになる伊藤忠商事・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅)を取り上げます。詳しい数値は商社業界トップ5 財務諸表比較ツールで確認できます。この記事ではツールのデータをもとに、5社の決算がどう違うのかを読み解きます。
比較の前提:5社とも2026年3月期・会計基準はIFRSで統一
5社はいずれも決算期が3月末で揃っており、決算短信もすべて2026年5月1日に発表されているため、完全に同一時点の決算を横並びで比較できます。自動車業界編ではIFRSと日本基準が混在していましたが、5大商社は会計基準がIFRS(国際会計基準)で統一されているため、会計基準の違いによる注意書きは不要です。
一方で、IFRSを採用していても「営業利益」の開示方法は会社によって異なりました。伊藤忠商事・丸紅は投資家便宜のため参考値として営業利益を自主開示していますが、三菱商事・三井物産・住友商事の3社はIFRS連結損益計算書に営業利益に相当する独立科目自体が存在せず、根拠のない推測値を掲載しないため本記事・ツールでは「算出不可」としています。この点は、単純に「営業利益率」だけで5社の収益性を比較できない商社業界特有の事情です。
規模:三菱商事が売上高約19兆円でトップ、三井物産は減収
| 伊藤忠 | 三菱商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 14兆8,231億円 | 18兆9,160億円 | 13兆9,952億円 | 7兆3,373億円 | 8兆2,658億円 |
| 前期比 | +0.7% | +1.6% | -4.6% | +0.6% | +6.1% |
売上高でトップは三菱商事の18兆9,160億円で、5社で唯一20兆円に迫る規模です。一方、資源価格の下落が響いたとみられる三井物産は前期比-4.6%の減収と、5社の中で唯一マイナス成長でした。丸紅は+6.1%と5社で最も高い伸び率です。住友商事は5社中最も売上規模が小さく、7兆円台にとどまります。
収益性:稼ぎの中身は「トレーディング」より「出資先企業からの投資収益」
商社の収益性を見る上で最も特徴的なのが、持分法による投資損益(出資先企業の利益のうち自社の持分相当額)の存在です。
| 伊藤忠 | 三菱商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 当期純利益 | 9,003億円 | 8,005億円 | 8,340億円 | 6,003億円 | 5,439億円 |
| 持分法による投資損益 | 3,235億円 | 4,679億円 | 4,474億円 | 2,667億円 | 3,383億円 |
| 投資収益比率 | 35.9% | 58.5% | 53.6% | 44.4% | 62.2% |
当期純利益がトップなのは伊藤忠商事の9,003億円で、売上高では3位ながら利益では5社トップです。ただし注目したいのは「投資収益比率」(当期純利益に占める持分法投資損益の割合)です。丸紅は62.2%、三菱商事は58.5%と、当期純利益の半分以上が出資先企業からの投資収益で占められています。 一方、伊藤忠商事は35.9%と5社で最も低く、相対的に本業のトレーディング・事業運営から得た利益の割合が高いことが分かります。
「商社は営業利益率が低いのに儲かっている」という印象を持つ方も多いと思いますが、その理由の一端はこの投資収益比率にあります。三菱商事・三井物産・住友商事の3社に営業利益という概念自体がないことも踏まえると、商社の収益力は「トレーディングでいくら稼いだか」ではなく「出資先企業も含めたグループ全体でいくら稼いだか」で見る必要がある業界だと言えます。詳しい内訳は投資収益比率チャートでご確認ください。
財務健全性:5社ともネットキャッシュはマイナス。ただし「歪み」ではなく「投資会社的な財務構造」
| 伊藤忠 | 三菱商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 39.4% | 39.1% | 42.1% | 33.9% | 41.4% |
| ネットキャッシュ | ▲3兆789億円 | ▲3兆9,054億円 | ▲4兆1,402億円 | ▲3兆1,717億円 | ▲1兆8,589億円 |
自己資本比率は三井物産が42.1%で最も高く、住友商事が33.9%で最も低くなっています。もっとも大きな特徴は、5社すべてでネットキャッシュがマイナス(負債超過)だったことです。自動車業界編では、金融子会社(自動車ローン等)の存在が連結ベースのネットキャッシュを歪めるという問題がありましたが、商社は通常そうした大規模な自社金融事業を持ちません。それでも5社ともマイナスになるのは、資源開発・インフラ等への大規模投資を借入で賄う商社のビジネスモデル上、通常時から有利子負債が現金を上回りやすい「レバレッジを効かせた投資会社」的な財務構造であるためと考えられます。自動車業界の「金融子会社による歪み」とは性質が異なる点にご注意ください。
市場評価:住友商事が最割安のPER、伊藤忠は最高のPBR
| 伊藤忠 | 三菱商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 | |
|---|---|---|---|---|---|
| PER(会社予想) | 14.92倍 | 15.96倍 | 15.05倍 | 11.96倍 | 14.53倍 |
| PBR(実績) | 2.15倍 | 1.86倍 | 1.58倍 | 1.63倍 | 1.93倍 |
| 配当利回り(会社予想) | 2.17% | 2.61% | 2.87% | 2.53% | 2.24% |
PERが最も低い(割安)のは住友商事の11.96倍、最も高いのは三菱商事の15.96倍です。一方PBRは自動車業界とは対照的に5社とも1倍を上回っており、最も高いのは伊藤忠商事の2.15倍でした。興味深いのは、伊藤忠商事は当期純利益こそトップながら投資収益比率が5社で最も低い(35.9%)会社でもあった点です。市場が伊藤忠商事を相対的に高く評価している背景には、資源価格などの外部要因に左右されやすい持分法投資損益への依存度が低く、より安定した収益構造だと評価されている可能性があります。配当利回りは三井物産が2.87%で最も高くなっています。
商社業界の「目安値」について、現時点で言えること・言えないこと
自動車業界編に続き、今回も商社業界1業界・5社・1時点のデータにすぎないため、「商社のROEは何%が標準」と断定することはできません。ただし、自動車業界と商社業界という性質の異なる2業界を比較できたことで、次の2点が見えてきました。
- 自動車業界は装置産業として営業利益率という指標で収益性を比較できましたが、商社業界は同じIFRS採用でも会社によって営業利益という概念自体の有無が分かれ、業界特有の「投資収益比率」のような指標を新たに用意しないと収益構造の違いが見えにくい
- 自動車業界のネットキャッシュのマイナスは金融子会社という「例外的な歪み」でしたが、商社業界の場合は**5社中5社がマイナスという「業界としての通常パターン」**であり、同じネットキャッシュのマイナスでも意味合いが業界によって大きく異なる
自動車業界(製造業)・商社業界(投資・トレーディング業)という収益構造の異なる2業界のデータが揃ったことで、業界特性に応じて指標の読み方を変える必要性がより具体的に見えてきました。今後、他業界(銀行・小売など)のデータが揃った段階で、こうした違いをさらに比較していく予定です。
まとめ
- 売上高トップは三菱商事(18兆9,160億円)。三井物産は資源価格下落等の影響で唯一の減収(-4.6%)
- 当期純利益トップは伊藤忠商事(9,003億円)。ただし投資収益比率は5社で最も低い(35.9%)
- 丸紅(62.2%)・三菱商事(58.5%)は当期純利益の半分以上を持分法による投資損益(出資先企業からの利益)が占める
- 三菱商事・三井物産・住友商事の3社はIFRS連結損益計算書に営業利益に相当する科目がなく、算出不可
- 5社ともネットキャッシュはマイナス。ただし金融子会社による歪みではなく、投資を借入で賄う商社の財務構造を反映したもの
- PBRは自動車業界と対照的に5社とも1倍超。最高は伊藤忠商事(2.15倍)、最低PERは住友商事(11.96倍)
- 詳しい数値・グラフ(PER×売上高倍率のバリュエーション・マップ、ROA×自己資本比率の資本効率マップ、投資収益比率チャート)は商社業界トップ5 財務諸表比較ツールで確認できます
本記事で紹介した数値は各社の決算短信(2026年5月1日発表)および2026年7月29日時点の株価データに基づく、執筆時点の情報です。本記事・関連ツールは業界内での財務指標の相対比較を目的とした情報提供であり、投資助言・売買推奨ではありません。最新の情報は各社のIR資料でご確認の上、投資判断はご自身の責任で行ってください。