【業界比較】トヨタ・ホンダ・日産・スズキ・マツダ、2026年3月期決算を財務指標で比較する

業界比較自動車株財務諸表

「トヨタは高収益」「日産は業績が厳しい」といったイメージは、投資に関心がある方なら何となく持っているかもしれません。しかし、実際に売上高・利益率・ROE・自己資本比率といった財務指標を横並びで数字にしてみると、そのイメージ以上に各社の決算内容が大きく分かれていることが分かります。

この記事は、Quant Nestの新シリーズ「業界比較」の第1弾です。同じ業界のトップ企業を財務指標で比較し、「この業界ではこのくらいが目安の水準」という相場観を、数字の根拠付きで整理していきます。第1弾は国内自動車業界から、売上高ベースでトップ5のトヨタ自動車・本田技研工業(ホンダ)・日産自動車・スズキ・マツダを取り上げます(当初はトップ3で公開しましたが、比較対象を5社に拡大しました)。詳しい数値は自動車業界トップ5 財務諸表比較ツールで確認できます。この記事ではツールのデータをもとに、5社の決算がどう違うのかを読み解きます。

比較の前提:5社とも2026年3月期・決算期は3月末で統一

5社はいずれも決算期が3月末で揃っているため、2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の通期決算をそのまま横並びで比較できます。ただし1点、会計基準が異なる点には注意が必要です。トヨタ・ホンダ・スズキはIFRS(国際会計基準)、日産・マツダは日本基準で開示しており、「営業利益」の算出方法が基準間で完全には一致しない場合があります。特に日本基準2社と他3社の営業利益率を比較する際は、参考値として捉えてください。

規模:トヨタは日本企業初の売上高50兆円超、5社で6倍超の開き

まず売上高で見ると、5社の勢いの違いがはっきり表れています。

トヨタ ホンダ 日産 スズキ マツダ
売上高 50兆6,849億円 21兆7,966億円 12兆79億円 6兆2,930億円 4兆9,182億円
前期比 +5.5% +0.5% -4.9% +8.0% -2.0%

トヨタは前期比+5.5%増収で、日本企業として初めて売上高50兆円を突破し、5年連続で過去最高を更新しました。5位のマツダ(4兆9,182億円)と比べると、トヨタの売上高はおよそ10倍という規模差です。増収なのはトヨタ・ホンダ・スズキの3社で、なかでもスズキは+8.0%と5社中最も高い伸び率でした。一方、日産(-4.9%)とマツダ(-2.0%)は減収です。同じ自動車業界でも、成長の方向性が真逆に近い状態にあることがまず見て取れます。

収益性:最も稼いでいたのは売上規模最小のスズキ

規模以上に差が開いているのが、収益性の指標です。ここが5社に広げて最も意外だったポイントでもあります。

トヨタ ホンダ 日産 スズキ マツダ
営業利益 3兆7,662億円 △4,143億円 580億円 6,229億円 516億円
営業利益率 7.4% -1.9% 0.5% 9.9% 1.1%
当期純利益 3兆8,480億円 △4,239億円 △5,331億円 4,393億円 351億円

営業利益率でトップだったのは、5社の中で売上高が最も小さいスズキで、9.9%と5社トップでした。トヨタの7.4%を上回っています。スズキはインドを中心とした海外事業が好調で、営業利益額も6,229億円とトヨタに次ぐ規模です。「売上規模が大きいほど収益性も高い」とは限らないことを、この5社の並びが示しています。

トヨタは増収にもかかわらず、営業利益・純利益ともに前期比で2割前後の減益となりました。米国の関税措置が主因とされており、増収減益という決算です。

ホンダは最も大きな変化があった会社です。売上収益はほぼ横ばいながら、四輪電動化戦略の見直しに伴うEV関連の減損損失を計上した影響で、営業利益・当期利益がともに赤字に転落しました。前期は営業利益1兆2,134億円の黒字だったことを踏まえると、1年での落差の大きさが分かります。

日産は営業利益580億円(営業利益率0.5%)、マツダも516億円(同1.1%)と、いずれも「利益がほぼ出ていない」に近い薄い水準です。日産の最終損益は5,331億円の赤字(前期6,709億円の赤字からは縮小)、マツダも純利益は351億円まで落ち込みました(前期比69.2%減)。

5社を見ると、自動車業界の営業利益率は9.9%からマイナス1.9%までの幅があることになります。「自動車株は高収益」と一括りにできるものではなく、同じ業界内・同じ決算期でもここまで差が出ることを、この決算は示しています。

財務健全性:スズキの自己資本比率51.0%、日産は24.2%

トヨタ ホンダ 日産 スズキ マツダ
自己資本比率 37.8% 35.3% 24.2% 51.0% 42.5%

自己資本比率スズキが51.0%で5社トップ、次いでマツダ42.5%、トヨタ37.8%、ホンダ35.3%と続き、日産は24.2%(前期26.1%から低下)と5社で最も薄くなっています。自己資本比率が低いこと自体が即座に危険というわけではありませんが、赤字が続く中で財務的な余力がどれだけあるかを見る上で、日産は他の4社よりも注視が必要な水準といえます。

市場評価:PBR1倍を上回るのはスズキだけ

株価に基づく指標を見ると、3社だけを比較していたときには見えなかった構図が浮かび上がります。

トヨタ ホンダ 日産 スズキ マツダ
PER(会社予想) 12.9倍 23.7倍 58.2倍 10.4倍 8.2倍
PBR(実績) 0.97倍 0.52倍 0.24倍 1.17倍 0.39倍
配当利回り(会社予想) 3.37% 4.42% 0.00% 2.48% 4.72%

トヨタ・ホンダ・日産の3社だけを見ていたときは「PBRは3社とも1倍割れ」という結果でしたが、スズキを加えるとPBR1.17倍で唯一1倍を上回っています。 PBR1倍は「株価が解散価値(純資産)と同水準」の目安とされる数字で、東証も上場企業に対して「1倍割れの是正」を求める姿勢を示してきました。

このスズキだけがPBR1倍を上回っている背景は、偶然ではなさそうです。前述の通りスズキは営業利益率9.9%・ROE13.0%(簡易値、後述の資本効率マップ参照)と、5社の中で収益性・資本効率がともに最も高い会社でした。市場が高く評価しているのは、その裏付けとなる実際の収益力だと考えられます。逆に言えば、他4社のPBRの低さは「自動車産業への慎重な評価」というより、それぞれの会社の足元の収益力を市場が織り込んだ結果という側面が強そうです。

なおホンダ・日産のPERは、2026年3月期が最終赤字だったため実績PERが算出できず、証券情報サイトが表示する「会社予想PER」(2027年3月期の会社予想利益に基づく)を採用しています。直近の実績決算とは異なる期の利益をもとにしている点にご注意ください。配当については、トヨタ・ホンダ・スズキ・マツダは減益・赤字の中でも増配としている一方、日産は無配です。

自動車業界の「目安値」について、現時点で言えること・言えないこと

冒頭で触れた通り、このシリーズの狙いは「業界としてどのくらいの水準が標準的か」という相場観を積み上げていくことです。今回3社から5社に対象を広げたことで、「PBRは業界内で軒並み1倍割れ」という当初の見立てが、スズキという反例によって崩れました。これは母数を増やすことの重要性を示す好例だと思います。ただし今回もまだ自動車業界1業界・5社・1時点のデータにすぎず、これだけで「自動車業界のROEは何%が標準」と断定するのは早計です。特に2026年3月期は米国の関税措置やEV戦略の見直しが重なり、各社とも平時とは言いにくい決算だった点は割り引いて見る必要があります。

その上で、今回の数字から言えることは次の2点です。

  • 自動車業界は装置産業・グローバル展開産業としての性質上、為替・関税・技術シフト(EV化)といった外部要因の影響を強く受けやすく、同業界内でも年度によって営業利益率が数%〜マイナスまで大きく振れうる。しかも売上規模の大小と収益性の高低は必ずしも一致しない
  • PBRの高低は、業界一律の評価というより各社の収益力・資本効率の違いを反映している可能性が高い。今回はスズキが唯一1倍を上回り、その裏には5社中最高の営業利益率・ROE・自己資本比率があった

他業界(銀行・商社など)の比較データが揃った段階で、こうした特徴が自動車業界に固有のものか、日本株全体に共通する傾向なのかを見比べていく予定です。

まとめ

  • トヨタ自動車は日本企業として初めて売上高50兆円を突破した一方、米関税等の影響で営業利益・純利益は前期比2割前後の減益
  • ホンダはEV関連の減損損失により営業利益・当期利益が赤字に転落。減益・赤字でも配当は増配
  • 日産は減収が続き、営業利益率0.5%という薄い利益水準。自己資本比率24.2%は5社で最も薄い
  • スズキは売上規模こそ5社中4位ながら、営業利益率9.9%・ROE13.0%・自己資本比率51.0%・PBR1.17倍と、収益性・財務健全性・市場評価のすべてで5社トップ
  • マツダも営業利益率1.1%・純利益は前期比69.2%減と、日産と同様に薄い利益水準が続く
  • トヨタ・ホンダ・スズキはIFRS、日産・マツダは日本基準と会計基準が異なるため、営業利益等の単純比較には注意が必要
  • 詳しい数値・グラフ(PER×売上高倍率のバリュエーション・マップ、ROA×自己資本比率の資本効率マップ)は自動車業界トップ5 財務諸表比較ツールで確認できます

本記事で紹介した数値は各社の決算短信(2026年5月8日〜5月14日発表)および2026年7月27日時点の株価データに基づく、執筆時点の情報です。本記事・関連ツールは業界内での財務指標の相対比較を目的とした情報提供であり、投資助言・売買推奨ではありません。最新の情報は各社のIR資料でご確認の上、投資判断はご自身の責任で行ってください。