通信業界トップ3 財務諸表比較
日本国内で独立して上場している通信キャリア3社(日本電信電話・KDDI・ソフトバンク)について、2026年3月期通期決算の主要財務指標を横並びで比較します。他業界編の「トップ5社比較」と異なり、本業界は上場している純粋な通信キャリアが3社に限られるため「トップ3社比較」として構成しています。
バリュエーション・マップ(PER × 売上高倍率)
縦軸はPrice Earnings Ratioの略。株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標で、株価が利益水準に対して割高か割安かの目安として使われます。詳しくはこちら →、横軸は時価総額を売上高で割った倍率(PSR=Price to Sales Ratioとも呼ばれます)。利益がマイナスでPERが算出できない赤字企業でも、売上高さえあれば算出できる株価指標です。詳しくはこちら →で、いずれも対数スケールです。バブルの大きさは時価総額を表します。数値の詳細は下記「指標比較表」または各バブルにカーソルを合わせてご確認ください。
※KDDIのみ、2026年7月31日時点で会社予想PERが未掲載だったため、実績PER(株価÷実績EPS)を採用しています。NTT・ソフトバンク(翌期の会社予想利益に基づく)とは算出根拠の期が異なります。
資本効率マップ(ROA × 自己資本比率)
Return On Equityの略。株主が出した資本(自己資本)に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷自己資本で算出します。詳しくはこちら →という1つの数字が「本業の稼ぐ力(Return on Assetsの略。負債も含めた総資産全体に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷総資産で算出します。詳しくはこちら →)」と「レバレッジ(総資産のうち、返済不要の自己資本(株主資本)がどれだけの割合を占めるかを示す指標。数字が高いほど負債への依存度が低く、財務的な余力が大きいとされます。詳しくはこちら →の低さ)」のどちらでできているかを分解して見るチャートです。斜めの参照線はROE一定線(ROE=ROA÷自己資本比率という恒等式に基づく)で、同じ線の上に乗っている会社は数式上ROEが同じであることを意味します。
横軸は自己資本比率(親会社所有者帰属持分÷資産合計)、縦軸はROA(簡易値=ROE×自己資本比率で逆算した値)で、いずれも線形スケールです。バブルの大きさは時価総額です。
※ソフトバンクの自己資本比率は、非支配持分を含む「資本合計」ベースで計算すると約25%まで上がりますが、本チャートは他業界編と算出根拠を揃えるため親会社所有者帰属持分ベース(16.0%)を採用しています。詳しくは下記「算出方法・データソース」をご覧ください。
ネットキャッシュ比較チャート
ネットキャッシュ(現金及び現金同等物-有利子負債)は、借入金をすべて返済してもなお現金がどれだけ残るかを表す指標です。通信業界は基地局・光ファイバー等のインフラ投資が非常に大きく、3社とも有利子負債が現金同等物を大幅に上回るため、ネットキャッシュはいずれも大幅なマイナスになります。
ネットキャッシュの大きい順(マイナス幅が小さい順)に3社を並べた横棒グラフです。単位は兆円(軸目盛り)、バー上のラベルは億円単位の実数です。3社とも連結ベースで統一して算出しています。
指標比較表
| 指標 | 日本電信電話 | KDDI | ソフトバンク |
|---|---|---|---|
| 規模 | |||
| 売上高(売上収益・経常収益) | 144,091億円 | 60,719億円 | 70,387億円 |
| 売上高成長率(前期比) | +5.1% | +4.1% | +7.6% |
| 収益性 | |||
| 営業利益(経常利益) | 17,062億円 | 10,991億円 | 10,426億円 |
| 営業利益率(経常利益率) | 11.8% | 18.1% | 14.8% |
| 当期純利益 | 10,370億円 | 7,071億円 | 5,508億円 |
| Return On Equityの略。株主が出した資本(自己資本)に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷自己資本で算出します。詳しくはこちら → | 10.5% | 13.8% | 20.6% |
| Return on Assetsの略。負債も含めた総資産全体に対して、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。当期純利益÷総資産で算出します。詳しくはこちら → | 2.2% | 3.7% | 3.3% |
| EPS(1株当たり利益) | 12.61円 | 183.59円 | 11.35円 |
| 財務健全性 | |||
| 総資産のうち、返済不要の自己資本(株主資本)がどれだけの割合を占めるかを示す指標。数字が高いほど負債への依存度が低く、財務的な余力が大きいとされます。詳しくはこちら → | 20.8% | 26.6% | 16.0% |
| BPS(1株当たり純資産) | 119.47円 | 1333.50円 | 55.13円 |
| 現金及び現金同等物 | 19,219億円 | 10,788億円 | 14,388億円 |
| 有利子負債 | 169,195億円 | 53,754億円 | 64,846億円 |
| ネットキャッシュ | -149,977億円 | -42,965億円 | -50,458億円 |
| 市場評価 | |||
| 1株配当(会社予想) | 5円 | 84円 | 9円 |
| 株価 | 152.4円 | 2921.0円 | 223.4円 |
| Price Earnings Ratioの略。株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標で、株価が利益水準に対して割高か割安かの目安として使われます。詳しくはこちら → | 12.66倍 | 15.91倍 | 19.06倍 |
| PBR(実績) | 1.28倍 | 2.19倍 | 4.05倍 |
| 配当利回り(会社予想) | 3.54% | 2.88% | 3.94% |
| 時価総額 | 137,999億円 | 117,058億円 | 107,271億円 |
| 時価総額を売上高で割った倍率(PSR=Price to Sales Ratioとも呼ばれます)。利益がマイナスでPERが算出できない赤字企業でも、売上高さえあれば算出できる株価指標です。詳しくはこちら → | 0.96倍 | 1.93倍 | 1.52倍 |
決算数値の算出基準: 2026年5月8日〜5月12日発表の2026年3月期決算短信/株価・PER・PBR・配当利回り・時価総額の基準: 2026年7月31日(東証終値)、時価総額・発行済株式数は同日時点
通信業界のビジネスモデルと財務構造
通信キャリアの本業は、携帯電話・固定回線の利用料を毎月受け取るストック型(継続課金型)のビジネスです。契約者数×1契約あたりの収入(ARPU)で売上が決まり、一度契約した利用者が乗り換えにくいため、景気が悪化しても収益が落ちにくいディフェンシブ株の代表とされます。
一方で、基地局や光ファイバー網、データセンターなどの通信インフラへの継続的な設備投資が欠かせず、その資金を借入や社債で調達するため有利子負債は大きくなります。安定したキャッシュフローを裏付けに借入を活用することで、自己資本比率は20%前後と低めながらROEを高めているのが業界の財務構造です。
近年は通信料金の値下げ圧力を受け、各社とも決済・銀行・カードなどの金融事業やエネルギー、法人向けDXなど「非通信」分野の成長で利益を伸ばす戦略を取っています。金融事業の拡大は連結の負債を膨らませる要因にもなるため、自己資本比率の低下が事業構成の変化によるものかどうかを見分けることが大切です。
通信業界で注目したい指標の読み方
- 配当利回り
- 安定収益を背景に高い株主還元を続ける業界で、3%前後の配当利回りが一般的です。増配の継続性や配当性向とあわせて、インカム目的での比較に使われます。
- ROEと自己資本比率
- 自己資本比率が16〜27%と低いぶん、ROEは財務レバレッジで押し上げられています。ROEの高さを評価する際は、ROA(総資産に対する稼ぐ力)とセットで見て、借入の活用によるものか本業の収益力によるものかを確認しましょう。
- ネットキャッシュ
- 通信インフラへの投資資金を借入で賄うため、3社とも数兆円〜十数兆円規模のマイナスです。安定したキャッシュフローで返済・借り換えができる限り問題にはなりませんが、金利上昇時の利払い負担には注意が必要です。
3社の比較から読み取れること(運営者の見解)
ROE20.6%のソフトバンクは高レバレッジ型
ソフトバンクのROEは20.6%と3社で最も高い一方、自己資本比率は16.0%と最も低く、ROAは3.3%とKDDI(3.7%)を下回ります。高いROEは本業の収益力に加えて、財務レバレッジの活用によって押し上げられている面が大きいと読めます。市場の評価もPBR4.05倍と3社で最も高くなっています。
営業利益率・ROAはKDDIがトップ
KDDIは営業利益率18.1%・ROA3.7%と、本業の稼ぐ力を示す指標で3社トップです。自己資本比率も26.6%と最も高く、収益性と財務のバランスが最も取れた構成といえます。
NTTは最大規模・最大の有利子負債
NTTは売上高14.4兆円と、KDDI・ソフトバンクの2倍以上の規模を持ちます。一方でネットキャッシュは約−15兆円と3社で最も大きなマイナスで、自己資本比率は20.8%です。PERは12.66倍と3社で最も低く、配当利回りは3.54%と、インカム重視の投資家にとって比較の軸になる水準です。
3社とも配当利回り3%前後で増収
配当利回りは2.88%〜3.94%、売上高は+4.1%〜+7.6%と3社とも増収でした。通信料金の値下げ後も、金融・法人事業などの非通信分野で成長を続けていることが数字から確認できます。
あわせて読みたい記事
- 貸借対照表(BS)の読み方:資産・負債・純資産と自己資本比率 — 自己資本比率・有利子負債の基礎
- 損益計算書(PL)の読み方:売上高から当期純利益までの利益の構造 — 営業利益率・当期純利益の基礎
※上記は掲載データをもとにした運営者の見解であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
会社概要・会計基準
3社ともIFRS(国際会計基準)で決算を開示しているため、会計基準の混在(自動車業界編で発生したIFRS/日本基準の混在)はありません。
算出方法・データソース
- 各社の決算短信(2026年3月期通期、2026年5月8日〜5月12日発表)に記載の数値を手動で確認して入力しています。自動取得は行っていません。
- 対象は、日本国内で独立して上場している通信キャリア3社(NTT・KDDI・ソフトバンク)です。NTTドコモは2020年にNTTの完全子会社化により非上場化しているため対象に含めていません。楽天モバイルを運営する楽天グループは、継続的な赤字や他事業(EC・金融)との複合的な収益構造のため、他業界編のような「トップ5社」に無理に揃えず対象外としました。
- ROE(自己資本利益率)は、各社が決算短信で個別に公表する値ではなく、EPS(基本的1株当たり当期利益)÷ BPS(1株当たり親会社所有者帰属持分、期末値)で3社統一の計算式により算出した簡易値です。期中平均ではなく期末の値を分母にしているため、公表される正式なROEとは小数点以下がずれる場合があります。
- ROA(総資産利益率)は、資産合計の実額から算出した値ではなく、上記の簡易ROEに自己資本比率を掛けて逆算した簡易値です(ROE=ROA÷自己資本比率という恒等式の逆算)。
- 自己資本比率は「親会社の所有者に帰属する持分合計 ÷ 資産合計」で算出しています。ソフトバンクは非支配持分(PayPay関連事業等の合弁・出資先)が大きく、非支配持分を含む「資本合計」ベースで計算すると約25%まで上がりますが、他業界編と算出根拠を揃えるため親会社所有者帰属持分ベース(16.0%)を採用しています。
- PER(会社予想)は、KDDIのみ2026年7月31日時点で会社予想PERが未掲載だったため、実績PER(株価÷実績EPS)を採用しています。NTT・ソフトバンク(翌期の会社予想利益に基づく)とは算出根拠の期が異なる点にご注意ください。
- 株価・PER・PBR・配当利回り・時価総額は2026年7月31日(東証終値)、時価総額・発行済株式数は同日時点時点の市場データです。
- ネットキャッシュ(現金及び現金同等物-有利子負債)は、3社とも連結ベースで算出しています。有利子負債は短期・長期の借入債務、社債、リース負債の合計です。自動車業界編のような金融事業(自動車ローン・リース事業)を区分する発想は採らず、3社とも統一の連結ベースとしています。なお、ソフトバンクは「金融」事業セグメント(PayPayカード等)を含む事業構成であり、セグメント別の資産・負債の分離開示がないため、その有利子負債も連結の有利子負債に含まれています。
関連コンテンツ
※本ツールは各社の決算短信に基づく財務指標を業界内で相対比較する情報提供を目的としており、投資助言・売買推奨ではありません。特定の企業への投資を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。数値は算出時点のものであり、最新の情報は各社のIR資料でご確認ください。