相関係数を味方につける:分散投資が「効く」仕組みを金融工学で解説

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「卵は一つのカゴに盛るな」は、分散投資の基本としてよく引用される格言です。しかし「なぜ分散するとリスクが下がるのか」を数字で説明できる人は多くありません。その裏付けとなっているのが相関係数という指標です。本記事では、標準偏差の記事の続きとして、相関係数がポートフォリオ全体のリスクにどう効いてくるかを解説します。

相関係数とは、2つの資産の「連動度合い」

相関係数は、-1〜+1の範囲で、2つの資産の値動きがどれくらい連動しているかを表す指標です。

  • +1に近い: 2つの資産はほぼ同じ方向に動く
  • 0に近い: 2つの資産の値動きに、統計的な関係がほとんどない
  • -1に近い: 2つの資産はほぼ逆方向に動く

分散投資の効果は、実は「資産の数を増やすこと」自体ではなく、「相関の低い資産を組み合わせること」によって生まれます。相関が高い資産同士をいくら組み合わせても、実質的には同じ資産を持っているのとあまり変わらず、リスク低減効果は限定的です。

数式で見る「分散効果」

2つの資産を組み合わせたポートフォリオ全体の標準偏差は、次の式で決まります(w は組入比率、σ は標準偏差、ρ は相関係数)。

ポートフォリオの分散 = w1²σ1² + w2²σ2² + 2 × w1 × w2 × σ1 × σ2 × ρ

ここで注目したいのは、相関係数ρが1未満であれば、単純に「w1×σ1 + w2×σ2」で計算した加重平均よりも、実際のポートフォリオの標準偏差は小さくなるという点です。この「単純な加重平均より実際のリスクが低くなる差」こそが、分散投資の効果そのものです。

実例: 株式60%・債券40%で確認する

ポートフォリオ比較ページの想定値(世界株式: 期待リターン5.0%・標準偏差15.0%、世界債券: 期待リターン1.8%・標準偏差6.0%、両者の相関係数0.15)を使って、実際に計算してみます。

  • 単純な加重平均: 0.6 × 15.0% + 0.4 × 6.0% = 11.4%
  • 相関係数0.15を反映した実際のポートフォリオ標準偏差: 上記の式で計算すると 9.7%

同じ資産・同じ比率で組み合わせても、相関係数を考慮すると標準偏差は11.4%ではなく9.7%まで下がります。この差、約1.7ポイントが「株式と債券という相関の低い資産を組み合わせたことによる分散効果」です。株式と債券は完全に無関係というわけではありませんが(相関0.15)、それでも十分な分散効果が得られていることがわかります。

相関が高い資産同士では、分散効果は限定的

一方で、GPIF基本ポートフォリオに含まれる「国内株式」と「外国株式」は、相関係数が0.7とかなり高く設定されています。株式同士は、国や地域が違っても世界経済の動向にあわせて似た方向に動きやすいためです。相関が高い資産をいくら組み合わせても、上の式の「2×w1×w2×σ1×σ2×ρ」の項が大きく残るため、リスクの低減効果は小さくなります。

実際、GPIF基本ポートフォリオ(国内株式・外国株式・国内債券・外国債券に25%ずつ)全体で見ると、

  • 単純な加重平均: 0.25 × (20.0% + 18.0% + 3.0% + 9.0%) = 12.5%
  • 相関を反映した実際の標準偏差: 9.4%

差は約3.1ポイントと、60:40の場合(約1.7ポイント)より大きな分散効果が出ています。これは、GPIF型が「株式と債券」だけでなく「国内と海外」という軸でも分散しており、相関の低い組み合わせをより多く含んでいるためです。資産の数を増やすこと自体よりも、相関の低い組み合わせをどれだけ持てているかが、分散効果の大きさを決めているのです。

極端なケースで直感を確認する

相関係数の役割を、両端のケースで確認しておきます。

  • 相関係数が+1の場合: 上の式の分散低減効果はゼロになり、ポートフォリオの標準偏差は単純な加重平均と一致します。分散投資の意味がなくなります
  • 相関係数が-1の場合: 理論上、比率を調整すれば標準偏差をほぼゼロまで打ち消せます。一方が下がればもう一方が必ず上がる、という関係だからです

現実の資産クラス同士で相関係数が-1に近い組み合わせはほとんどありませんが、「相関が低いほど分散効果が大きい」という方向性は、この極端なケースからも直感的に理解できます。

注意点: 相関は固定値ではない

ここで使っている相関係数は、あくまで平常時を想定した仮定値です。実際の市場では、暴落局面になると通常は相関の低い資産クラス同士の相関が急上昇し、分散効果が薄れる現象がしばしば観測されます。「分散していたはずなのに、暴落時にはすべての資産が同時に値下がりした」ということが起こりうるのはこのためです。この点は積立シミュレーターの数字の読み方暴落時のリバランスの記事でも触れています。相関係数は分散投資の効果を理解するための重要な道具ですが、平常時の目安であって保証ではない、という前提を忘れないようにしてください。

まとめ

  • 相関係数は、2つの資産の値動きの連動度合いを-1〜+1で表す指標で、分散投資の効果を決定づける
  • ポートフォリオ全体の標準偏差は、単純な加重平均ではなく、相関係数を反映した計算式で決まり、相関が低いほど実際のリスクは加重平均より小さくなる
  • 60:40では約1.7ポイント、GPIF基本ポートフォリオでは約3.1ポイントの分散効果が、相関係数の計算から確認できる
  • 資産の数を増やすことよりも、相関の低い組み合わせをどれだけ持てているかが重要
  • 相関係数は平常時の目安であり、暴落時には資産間の相関が上昇し分散効果が薄れることがある